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大阪地方裁判所 昭和32年(ワ)4298号 判決

事実

昭和三十二年(ワ)第四二九八号事件原告東京発動機株式会社(同年(ワ)第二八五二号事件被告、以下単に原告という)訴訟代理人は、

「訴外岡慶次が昭和三十二年三月九日、同年(ワ)第四二九八号事件被告大原成生(同年(ワ)第二八五二号事件原告、以下単に被告という)との間で別紙目録(目録省略)記載の物件についてなした代物弁済はこれを取消す。被告は原告に対し右物件についてなされた大阪法務局昭和三十二年三月二十八日受付第七三四一号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。被告の請求を棄却する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として「原告は昭和三一年九月一七日付販売契約に基き訴外岡慶次との間で原告製造にかかる軽二輪自動車、第二種原動機付自転車及びその附属品を代金毎月末日払の約で売渡すこととし、同年一〇月八日現在で金三、三〇〇、二五〇円、昭和三十二年二月二五日現在で金四、一三二、〇四四円の各売掛代金債権を有するに至つた。岡慶次は本件家屋を所有していたが昭和三一年九月一〇日、訴外金城成守より金七〇〇、〇〇〇円を弁済期日昭和三二年三月七日利息年六分利息支払期日毎月末日との約定で借受け、その担保として昭和三一年一〇月八日本件家屋に順位第一番の抵当権設定登記並びに代物弁済の予約を原因とする所有権移転請求権保全仮登記をなしたところ、金城成守は昭和三二年三月九日右仮登記上の権利を被告に譲渡し、被告は同日代物弁済を原因として本件家屋について所有権取得登記をした。本件家屋は約金二、五〇〇、〇〇〇円の価値を有し、且つ岡慶次の唯一の財産であつて他に債務を完済すべき資力がないから、前記代物弁済及びその予約は債権者を害することを知つてなされたものというべく、且つ金城成守及び被告も亦この間の事情を熟知していたものである。よつて原告は被告に対し民法第四二四条に基き本訴請求に及んだ」と述べた。

被告訴訟代理人は原告請求の原因に対する答弁及び被告請求の原因として、

「岡慶次が原告主張のとおり金城成守より金七〇〇、〇〇〇円を借受け、その担保として本件家屋に抵当権設定登記並びに所有権移転請求権保全仮登記をなし、被告が昭和三二年三月九日金城より右債権と共に右抵当権及び仮登記上の権利を譲受け、右仮登記の移転登記及び代物弁済による所有権移転登記手続を了えて(但し右各移転登記手続をしたのは同月二八日である)本件家屋の所有権を取得するに至つたことはこれを認める。原告主張の原告岡との取引関係は知らない。その余の原告主張事実は争う。岡慶次は昭和三一年九月一〇日、金城より前記金員を借受けるに当り本件家屋について前記代物弁済の予約をなしていたものであつて、原告は抵当権設定登記をしているが、被告は本件家屋について前記のとおり仮登記を経て本登記をなし所有権を取得するに至つたので、被告に対し右抵当権設定登記の抹消登記手続を求める」と述べた。

理由

岡慶次が昭和三一年九月一〇日、金城成守より金七〇〇、〇〇〇円を弁済期日昭和三二年三月七日利息年六分利息支払期日毎月末日との約定で借受け、その担保として岡所有であつた本件家屋に、昭和三一年一〇月八日順位第一番の抵当権設定登記並びに代物弁済の予約を原因とする所有権移転請求権保全仮登記をなしたこと、被告が昭和三二年三月九日金城より右所有権移転請求権を譲り受け、代物弁済を原因として(成立に争のない甲第一号証によれば同月二八日)本件家屋について所有権取得登記手続をしたことは当事者間に争のないところである。

証拠によれば原告は売主として昭和三一年九月中旬頃から同年十二月頃まで、買主岡慶次との間で軽二輪自動車類の売買取引をなし、同人に対し少なくとも金四、〇九二、五四四円の売掛代金債権を有するに至つたこと、岡は当時本件家屋以外には債務の裏付となるような資産を有していなかつたことが認められるが、岡が金城に対する金銭債務の担保として本件家屋について抵当権の設定を約し且つ、代物弁済の予約をなしたのは昭和三一年九月一〇日であることが認められ、右認定を覆すに足る証拠は存しないところ、その当時において原告が岡に対していかなる債権を有していたかについては何等の主張、立証がない(右代物弁済の予約が登記されたのは前記のとおり同年一〇月八日であるが、右代物弁済の予約以後に発生した債権は、たとい右代物弁済の予約に基づいてなされた登記が右債権の発生後であつても、右代物弁済の予約について取消権を有しない)。そうだとすれば岡がなした右代物弁済の予約については爾余の判断を俟つまでもなくこれを詐害行為として取消すことはできないものといわなければならない。代物弁済の予約において取消されない限り、予約完結権を有する者において代物弁済契約の締結の申込をすれば相手方はこれを承諾しなければならない債務を負うものであるから、その義務履行々為である代物弁済を取消すことは最早できないところである(而して通常、債務の担保として抵当権を設定し、且つ、同一物件について代物弁済の予約をなす場合においては、特別の事情の認められない限り、債権者において右予約完結権を有するものと認むべきである)。

証拠によれば原告は本件家屋について昭和三二年一月一七日受付第六四七号で抵当権設定登記手続きを了えていることが認められ他に反証はない。しかしながら前記のとおり本件家屋について右抵当権設定登記に先立つて所有権移転請求権保全仮登記がなされており、被告がこれに基づいて所有権移転登記手続をした(証拠によれば金城及び被告は昭和三二年三月一〇日頃、岡方に到着した書面で本件家屋を以て、前記債務の弁済に充てその所有権者を被告とする旨申入れたことが認められる)のであるから右抵当権設定登記は右所有権に牴触する範囲でその効力を失うものといわなければならない。

以上の理由によつて原告の請求はその理由を認めることができないのでこれを棄却し、被告の請求はその理由あるものとしてこれを認容。

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